アインザッツという言葉は、良く耳にするわりには、意外と正確な意味を知られていないのではないのでしょうか。何となく感じで用いられている音楽用語の一つではないかと思います。「アインザッツ」とはドイツ語で「挿入する」とか「差し込む」という意味ですが、音楽用語としては特にそのフレーズの「出だし」をさします。正式にはアインザッツ・ゲーベンといいます。
演奏の中では「アインザッツが揃う、揃わない」というように使われることが多く、「アインザッツに注意して」と言うと、正確にはフレーズの出の瞬間のタイミングを揃えることを意味しています。
合唱の場合では、休止後における歌い始めや、演奏し始めの瞬間のことをさしますが、一方では、ある音が曲の流れの中へ入っていくその「入り」をも意味するようです。特に「ポリフォニー」スタイルで書かれた作品の場合にはアインザッツは重要になります。
指揮者はアインザッツを出し続けることを仕事としていると言っても過言ではありません。音のない状態、またお休みしている状態から、しかも複数の奏者がタイミングを揃えて音を出すには、通常よりも高い集中力が必要になります。ですからアインザッツの部分というのは、とりわけて技術が必要になります。
有名なベートーベンの交響曲第五番”運命”の一楽章の冒頭の”運命の動機”の部分ですが、あれは出だしのザッツが難しいことでは右に出る曲はないといわれます。指揮のザッツの後に八部休符が一個あった後に弾き出さなければならず、それだけでも難しいのに、名指揮者であればあるほど激しさを強調するのでザッツがわかりにくくなるそうです。
音の出始めの瞬間は「アインザッツ」といいますが、それに対し、音が消える瞬間のことを「リリース」といいます。
|